カミングアウトについて
ここではカミングアウトについて解説します。
目次
カミングアウトとは
カミングアウトとは、自分が性別違和があること、性同一性障害であること、女性になりたいと思っていることを外部の人に告白する行為です。
カミングアウトの必要性
カミングアウトをする必要がないならそれにこしたことはありません。
しかし私たちは社会の中で生きており、社会とは他者との繋がりの上に成り立っています。自分ひとりだけで生きていける人はほぼいないでしょう。よって、自分のことを他者に告白し、理解を得るカミングアウトという行為は回避しようと思っても事実上回避できないのが現状です。
カミングアウトは必要ということになります。
2-1 カミングアウトのメリット
カミングアウトすることで得られるメリットは女性化が進めやすくなることです。また、今まで自分の内に留めていて悩んでいたことを共有できることで精神的にもかなり楽になるでしょう。
男性という固定概念・ジェンダーロールから離れることができ、女性に向けて進むことができます。
具体的には
- 髪を伸ばすことができる
- メイクをすることができる
- 女性の服を着ることができる
- スーツやネクタイから解放される
- 女子の制服を着ることができる
- 女性ホルモンの摂取など身体的女性化に進みやすくなる
などがあります。
2-2カミングアウトのデメリット
カミングアウトしたからといって誰しもが理解を示してくれるわけではありません。場合によっては拒絶され、偏見の目に晒される危険性があります。また、親などはずっと息子として育ててきた子供が「女になりたい」と突然言うのですから混乱します。絶対に認めない親もいるでしょう。その場合は女性化を諦めるか、家を出て縁を切るしかない窮地に立たされることとなります、
また、職場も同様です。LGBTという言葉が浸透してきたとはいえ現場での受け入れ体制はまだ整ってはいないのが現状です。男性だった社員が女性として扱って欲しいと言い出したとき、会社は組織なのでトップだけの判断というわけにはいきません。他の社員、とりわけ女性社員がどれだけ理解してくれるか、受け入れてくるかを勘案する必要があるためとてもデリケートな問題となります。会社側が拒否した場合は今までどおりネクタイにスーツ、短髪で働くか、女性化のために退職するしか道はなくなってしまいます。
このように、カミングアウトはそれを行うことで一瞬にして自分が生きるか死ぬかの窮地に立たされてしまうという危険性を持っています。
カミングアウトをする時期
さて、ではカミングアウトをする時期にはどのようなものがあるのでしょうか。
3-1 性別違和を感じたとき
自分が「女性じゃないか、女性になりたい、男性のままでは嫌だ」など感じ始めたとき、または確信したときです。
この段階ではまだ女性化は行っておらず、見た目はほぼ100%男性の状態です。男性として育ち、認知され、社会の中でもそのように過ごしていることと思います。
カミングアウトが成功するのなら最も「理想的な」段階と言えます。何といってもその後自分一人で悩みを抱え込む必要がなくなるのですから。カミングアウトする相手は主に親になるでしょうが、理解を示してくれるなら強い味方となってくれるでしょう。
しかし現実にはどうでしょうか。この段階では自分の性別違和を証明するものが「自分の主張」しかありません。診断書など専門的な医師の判断などがない状態です。この状態で「自分は女だ」と主張してもそれだけでは弱すぎるのが現状です。多くの人は「そんなの勘違いだ」と主張を一蹴することでしょう。髪を伸ばそうとしても「切れ」とすぐに言われるはずです。
この時期は理想的ではありますが、現実的であるとは言えません。
3-2 診断書取得後
ジェンダークリニックに通い、医師による性同一性障害の診断書を取得したときです。これは先ほどのものと違い、専門医のお墨付きという強力なバックが付きます。それもあやふやな「気持ち」ではなく「診断書」という実際にちゃんと目に見える形です。単に自分ひとりが主張しているのとは訳が違います。
親であれ学校であれ会社であれ、医師の診断書はそれなりに効果があるでしょう。専門医がそう診断するのならそうなのだろう、と納得しやすくなります。私はこの段階で会社にカミングアウトしました。診断書を提出し、男性的な扱いをやめるよう要求したのです。
具体的には
- スーツ・ネクタイの非着用
- 服装の自由化
- 長髪の許可
- メイクの許可
- 女性名(通称名)の使用
- 今後女性化しても雇用を継続すること
これを提示したところ、会社は上層部にその旨を伝え、結果私の要求はひとつを除き認められました。唯一認められなかったのは「通称名の使用」です。まぁ仕方ないですね。改名の実績準備のためこれも認めて欲しかったのですが、社員の名前に偽名を使うことは混乱を招くとの判断でした。何度か押しましたがダメでしたね。しかしこれで私は晴れて私生活でも会社でも女性として生活できることになりました。
3-3 SRS後
これはもうゴリ押しと言うか、最後の手段と言えるくらいの段階です。SRSまでカミングアウトしていないということは、逆にそうしなくてもいい環境に自分があり、さらにホルモン摂取、メイク、長髪など、およその外見の女性化はほぼ終わっている状態であることと思います。親元から離れ、性別を隠して働いている人などがこれに当たるでしょうか。たぶん改名も終わっているでしょう。
身体的に女性の身体になっているのでカミングアウトされた相手も受け入れざるを得ません。もうそれが現実であり事実なのですから。最も強力な手段と言えます。強力ですが、あまりにも強引です。物事には順序というものがあります。それをないがしろにされたことに落胆され、または怒りを覚えられることもあると思います。
しかしもう身体的にも社会的にも女性です。あとは時間が解決してくれます。徐々に認めてくれ、理解してくれるでしょう。人によっては絶縁されるかもしれませんが、そこまで女性化…いや、もう女性なのだからあとは自分の人生を歩むだけです。
カミングアウトする相手
カミングアウトする相手についてです。
4-1 親
最も自分に近い存在ではないでしょうか。親と言えば一親等の血族です。血で言えば兄弟より近い存在です。自分を産み育て、大切に扱ってきてくれた人です(そうでない人もいるかもしれませんが)。まず伝えたいと思うのはこの親ではないでしょうか。
この親が最も大切で、かつ最も難関といえます。
なんせ産まれたときから男の子で、男として、息子として育ててきたのですからその想いはとても強いです。男の子として幼稚園、小学校、中学校、高校と育っていく様を文字通り間近で見ています。当然のようにその後も男性として就職し、女性と結婚、いずれは可愛い孫を見せてくれると信じて、そんな未来を思い描いていることでしょう。
それがある日「俺、女になりたいんだ」と言われるのです。
これは衝撃的です。親としては仮に頭で理解できても気持ち的には受け入れがたいと思います。混乱し何日も悩むことでしょう。人によっては「女の子に産んであげられなくてごめんね」と涙ながらに謝罪の気持ちを伝えてくる優しい親もいると思います。しかし逆に「何を言ってるんだ!」と罵声を浴びせられ、全力拒否してくるケースも多いです。「何かの勘違いだよ」と真面目に受け取ってくれない場合もあります。
対応は様々です。
その親を納得させなければなりません。これは千差万別なのでどの段階でカミングアウトするかはその人の環境や育ち、親の考えによるところになるでしょうが、いずれは言わなくてはなりません。出来れば理解し、応援して「息子」ではなく「娘」として扱ってもらえることが理想でしょう。そのためにカミングアウトの時期には慎重にならなければなりません、
私は性別違和を実感し、ジェンダークリニックに通院し始めた時期に親にカミングアウトしました。反応は「勘違いだろ」でした。男性として育ち生きてきたのですからまぁ当然の反応だと思います。私が女である確証は私の主張以外何もありません。相手にぶつけるにはあまりにもカードが弱かったのです。しかし私は女性化を諦めませんでした、診断書を取得し、SRS、改名し、会社でも女性として働くようになりました。親が理解を示したのはSRSをした後でしたね。そこまでやるのなら本当なのだろう、本気なのだろうと応援してくれるようになりました。今では私のことを「由稀」と女性名で呼んでくれるまでになりました。このように諦めずに進むことも大切だと思います。私は行動で示したタイプになるでしょうか。
4-2 会社
生きていくためには食べていかなくてはなりません。そのためには仕事が必要です。結婚して専業主婦になる人は別ですが、多くの人はこの問題に直面するでしょう。会社での処遇です。いくら自分が女性化したいと思っても会社が認めてくれなければ髪を伸ばすことすらできません。会社は生活の中で多くの時間を占める場所です。ここを攻略しなければ女性化の道は絶たれると言っても過言ではありません。
以前と比べて最近はLGBTという言葉も広まり、性的少数者の存在も世間に認知されつつあります。時代としてはとてもいいと言えます。しかし現場はどうでしょうか、理念ではジェンダーフリーが推奨されている現代でも現場はまだまだそれにはとても追いついているとは言えません。現実は偏見・差別が横行しています。
特に中小企業は容赦ないです。いち個人の尊厳よりも会社の利益を取ります。当然と言えば当然です。MtFは元々男性です。女性化するにしても完パス(完全にパスすること、誰が見ても女性に見える状態)に至るまでにはどうしてもある程度の時間が必要です。しかも年単位で。その間、言葉は悪いですがいわゆる「ノンパス」状態の社員を会社は抱えることになります。この状態の人が例えば営業などできるでしょうか。取引先との関係の悪化には繋がらないでしょうか。他の社員、とりわけ女性社員の反応はどうでしょうか。SRSの間の休暇は?その間の給与は?人材の補充は?引き継ぎは?復帰は?問題は山積です。多くの経営者はこう思うでしょう。
辞めて欲しい
これが大部分の正直な気持ちだと思います。中小企業には受け入れる余裕などないところが多数でしょう。多くは仕入れ先などへの翌月の支払いさえカツカツな状態です。使えない社員は切る。これが経営上正しい判断です。解雇にはなりませんが自主退職するように仕向けられるでしょう。
ここでどうしても会社が理解を示してくれないのなら辞めるしかありません。女性化の道も簡単ではないのです。仕事をも失う覚悟でやる必要があります。一度辞めて女性となり、改めて女性として就職先を探すことになります。
どの程度会社が理解してくれるかはその会社によります。社風もそれぞのなので一概には言えません。運が良ければ認めてもらえるでしょう。また、本人がどれほど「女性っぽく見えるか」の資質もある程度必要になります。女性ホルモンを摂取してある程度女性化が進んでからカミングアウトするのが好ましいかもしれません。
私はフライングで女性ホルモンを摂取し、診断書を取ったところでカミングアウトしました。女性化を初めて2年ほど経っていましたので外見も少しは変わっていたのかもしれません。また、私は公務員として働いていたのでそれも大きかったのだと思います。
4-3 友達
友達は自分にとても近い存在なのでカミングアウトする際もかなり勇気がいるでしょう。嫌われたらどうしよう、拒否されたらどうしようと不安になって当然です。しかし拒否してくる友達は所詮その程度と考えていいのではないでしょうか。そういう友達は切った方がお互いのためです。逆に理解を示してくれる友達は大切な存在になります。今後トランスを続けていく際も心強い存在となるでしょう。ただ、友達にカミングアウトするときはアウティング(自分がGIDであることを他人に言うこと)されないように気を付けなければなりません。カミングアウトされた友達は重大なことを告白され、かつそれを誰にも言えないので負担に感じることもあるかと思います。しかし他言無用であることをちゃんと伝えましょう。
4-4 配偶者
このサイトを見ている人の中には既に婚姻している人もいるでしょう。性別違和を自覚する時期は人それぞれです。中には男性として生きなければならないと模索し、結果女性と結婚してしまうケースがあります。結婚「してしまう」という表現は多少語弊を含みますが、実際にそうです。事故です。アクシデントです。婚姻前にカミングアウトしており、配偶者もそれを承知の上で婚姻したのなら良いですが、多くの場合はそうではないでしょう。配偶者はあなたをあくまで男性として愛し、男性と結婚したのです。
それがある日、夫が「女性になりたい」と言い始めた。
どうでしょうか。大変です。まぁ私個人としては相手の見た目・性別が変わったくらいで揺らぐ愛など「愛ではない」と思っているのですが、一般的にこんな考えは通用しないでしょう。妻個人としては大問題です。許しがたい事実で裏切られたような心境に陥ることでしょう。妻は男性であるあなたを好きになったのであって、レズではないので女性は通常恋愛の対象にはなりません。なので激しく抗議・拒否されることでしょう。または説得されるかもしれません。
仕方ありません。離婚を視野に入れてください。
もちろん理解してくれる場合は関係を継続してもいいです。自分が愛した相手なのですから大切にしましょう。
4-5 子供
子供といってもその辺の近所の子供ではありません。自分の子です。婚姻し、かつ子供を持ってる人です。自分の子供に対してどのようにカミングアウトするのかもデリケートな問題で各々その環境も千差万別でしょう。ただ、子供は大人が思っているよりずっと柔軟な存在だと思います。柔軟なので受け入れてもらえることが多いと言えます。ただ、子供には学校という生活の場があります。そこでは友達もいることでしょう。気を付けなければならないのは、自分がトランスしたことによって子供が学校でからかわれないようにすることです。子供と一緒の外出時や学校の催し物(運動会など)では女性の格好はオススメできません。他者に見られたら悪い噂に発展するからです。よって子供がいる人のトランスはある程度限られたものに為らざるを得ません。もちろん環境によっては子供の友達にも受け入れてもらえることもあると思います。その時は堂々と女性の自分を見せてもいいでしょう。「お父さんすごく美人だね!」とか言われたら嬉しいですよね。
4-6 学校
中高生の方にとっては学校での時間は生活の中でも大半を占めるものだと思います。そしてどうしても短髪、男子制服、男子トイレなどが耐えられない場合、学校にGIDであることを理解してもらい、それなりの配慮をしてもらう必要が出てきます。しかしこれはとてつもない勇気が必要でしょう。学校側の配慮を得るというのは、自分がGIDであることを全生徒に知られると言っても過言ではないからです。今まで男子生徒であった人が、ある日から髪を伸ばし始めて女子の制服を着ている、もしくはジャージ登校になった。トイレも男子トイレではなく職員室近くのトイレや共用トイレを使うようになる。これは他の生徒にとっては目立つ行為ででしょうし、本人にとってもかなりのストレスになり得ます。この環境に耐えられるかが重要です。しかし理解を得られたのならこれはかなりのチャンスです。トランスは若いうちにしておく事に越したことはありません。学生の間にトランスを開始すれば、その後の人生の中でもプラスになることでしょう。女子生徒とも仲良くなり一緒に服を買いに行ったりすることもあると思います。もうトランスは始まっているのです。その環境を大切にしましょう。
まとめ
以上より、カミングアウトというのは女性化の過程で必要不可欠なものであり、また大きな転機をもたらすものです。良いようになる場合もあれば破滅的な結果を生むケースもあるでしょう。
しかし、それが男性が女性として生きるということです。
私たちは不運にも男性として生まれてしまったのです。それを途中から女性の人生にシフトしようとしている、これは簡単なことではありません。カミングアウトもそのひとつです。カミングアウトしてどうしても理解が得られなかった場合、その対象(親など)から離れるなどしないといけないケースもあるでしょう。しかし実際にはそう簡単にいかないですよね。こればかりは相手が納得することを祈るしかありません。うまくいかなかった場合でも自分が女性として生きていくという未来は変わらないので挫けずに前を向いて生きましょう。