戸籍変更関連

戸籍変更【申立編】

戸籍変更【申立編】

戸籍を男性から女性に変更するには所定の申立が必要になります。ここではそれをみていきましょう。

目次

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申立について

特例法に定められているように、戸籍変更には家庭裁判所への申立が必要です。申立については家庭裁判所のこの記事に説明があります。

申立先

申立先は自分が住んでいるところを管轄する家庭裁判所になります。自分が住んでいる所を管轄する家庭裁判所がどこかはここから探すことができます。

申立要件

申立には要件があり、それらを満たしている必要があります。これは特例法で定められている要件です。

①18歳以上であること

②現に婚姻していないこと

③現に未成年の子がいないこと

④生殖腺がないこと

→2023年10月25日最高裁大法廷にて違憲判決

⑤性器の状態が女性器になっていること

→同裁判にて高裁差し戻し

これらは「戸籍変更【制度編】」で説明しているので詳しくご覧になりたい方はこちらを参照してください。

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必要書類

では、具体的に申立に必要な書類は何があるのかをみていきます。必要な書類は以下のとおりです。

①申立書

②診断書

・メインの法定診断書

・性別適合手術証明書

・外性器検査診断書

・染色体診断書

③出生時から現在までの全ての戸籍謄本・除籍謄本

④郵便切手

⑤その他

それぞれについて解説します。

①申立書

申立書は書式が決まっています。基本的なことは家庭裁判所のこちらの記事を参照してください。ここでは記載例も載っているのでそれに沿って記入していけば大丈夫です。一番大事な「申立理由」の項目もほぼ全てコピーでいいでしょう。私もほとんどそのまま自分にコピーして書きました。

注意しなければならない事は、この項目は書くスペースがとても小さいので多くの事を盛り込もうとするとスペースが足りなくなってしまいます。実際に足りなくなって欄外にまで書いてしまっている当事者をちょこちょこ見かけます。まぁそれでも裁判官に伝わればいいのでしょうが、できれば所定のスペースに収まるように記入した方がスマートでしょう。文字はかなり小さめで書かないといけません。あと重要な書類なので記入するに当たっては結構緊張してしまい書き間違いをしてしまったり字が汚くなったりします。しかし「一文字一文字を丁寧に書く」ことを心がけておけば心象を悪くとられることはないので安心してください。以下が記載例となります。

書きたい事が多すぎてどうしてもスペースが足りなくなってしまう場合は欄外に書くのではなく、もう一枚印刷してそれを3枚目として続きから記入するといいと思います。申立書は必ずしも2枚である必要はありません。3枚以上になってもいいでしょう。その際は用紙の下にある(1/2)と書くところを適宜(1/3)等にしてください。

②診断書

診断書はガイドラインや特例法の性同一性障害者の診察・診断に係る規定、性別変更の要件などについて、それらを満たすものとしてそれぞれ必要になります。

・メインの法定診断書

特例法に基づいて発せられた厚生労働省令により、この診断書の書式もちゃんと決まったものが定められています。参考はこちら。この診断書には以下の項目が設けられています。

①氏名等

②生物学的な性別

③家庭環境、生活歴及び現病歴

④生物学的な性別としての社会的適合状況

⑤生物学的な性別とは別の性別であるとの持続的な確信の有無

⑥医療機関における受診並びに治療の経過及び結果

⑦他の性別としての身体的及び社会的適合状況

⑧その他参考となる事項

⑨二名の医師の診断

それぞれについてみていきましょう。

氏名等とは、氏名、生年月日、住所です。

性別学的な性別とは、外性器・内性器の診察及び染色体検査の項目です。ジェンダークリニックに掛かったら初期の段階で外性器(MtFであれば男性器)があることを泌尿器科で検査されることと思います。また、血液検査で染色体が男性のもの(XY染色体)であることを検査します。それらをもって身体は間違いなく「男性である」という結果が記載されます。

家庭環境、生活歴及び現病歴とは、⑴何人兄弟の何番目として産まれたか、遺伝子的な障害はないか、結婚歴や子供の有無、離婚はしているかなどが家庭環境として記載されます。⑵また、自分史にもとづいてジェンクリでカウンセリングを行ったと思いますが、その内容が生活歴として記載されます。幼少から現在までの生い立ち、いつ頃から性違和を感じ始めたか、その違和感でどのような行動をとったか、どのような苦労があったか、小学、中学、高校、大学、就職、結婚などそれぞれの時期においてどのように過ごしたかです。

生物学的な性別としての社会的適合状況とは、生物学的な性別(MtFであれば男性)として生活するにあたり、どの程度不適合が生じたかです。ここでは性別の違和感は幼少の頃より持続的にあった、思春期には男性として適合できていなかった、女性として暮らし始めて適合感が得られた、現在は常に女性として生きたいと考えている、といった内容が記載されます。

生物学的な性別とは別の性別であるとの持続的な確信の有無とは、⑴心理的には生物学的な性別(MtFなら女性)であるとの持続的な確信の有無。⑵自己を他の性別に適合させようとする意思の有無。これは女性ホルモン摂取について(フライング含む)ジェンクリでのホルモン治療、SRS等によるQOLの上昇、このことから女性として適合させようとしていることが明らかであることなどが記載されます。⑶性同一性障害者であること以外の理由によって性別の取扱いの変更を求めるものでないこと。ここでは幻覚妄想、統合失調症等の精神病症状で性違和を思い込んでるものではないこと、社会的・文化的に女性が有利だからという理由で性別変更しようとしているものではないこと、また職業的利得によるものでもないことが記載されます。⑷性同一性障害者であること。

医療機関における受診並びに治療の経過及び結果とは、⑴治療の必要性及び目的。ここでは前述のように詳細な病状歴等の聴取と諸検査の結果、性違和による苦痛は著しく、そのため身体の他の性別(MtFであれば女性)に適合させようとする意思を一貫して持っており、これらの苦痛を軽減して社会適応の改善を図るためには係る治療が必要であることが記載されます。⑵精神的サポート。ここでは自分史や病歴の詳細な聴取、カウンセリング、カムアウトの検討、性別移行の具体的方法の検討を行ったことが記載されます。⑶ホルモン治療及び乳房切除術。ここではホルモン治療をどの病院でどこくらいの期間、どのようなホルモン剤を投与し治療を行ったかが記載され、さらにそれによって身体的違和感の軽減され、他の性別(MtFであれば女性)としての社会生活がより適合するものとなったことが記載されます。FtMに関しては乳房切除に関する内容も記載されるものと思われます。⑷性別適合手術。ここではSRSを行った医師、病院、施術日、施術内容(卵巣摘出術、陰茎切除術、造膣術)、この結果生殖腺の機能は永続的に失われたこと、性器に対する嫌悪感は除去されたことなどが記載されます。

他の性別としての身体的及び社会的適合状況とは、⑴身体的適合状況。SRS後、ジェンクリから泌尿器科または婦人科を紹介され、そこで外性器が女性器になっていることの検査が行われますが、その診察日、診察した医師、身体の女性科の状況(乳房の発達、体毛の減少、外見の女性化)、性器が女性器になっていることなどが記載されます。⑵他の性別としての社会的適合状況。身体的に女性科したことで社会生活上の様々の不都合や支障が少なくなり生活の質が格段に改善したことなどが記載されます。

その他参考となる事項とは、例えばSRSをタイで行った場合、そのクリニックは数多くの症例を持ち臨床的実績があり信頼に値するなどの情報が記載されます。

二名の医師の診断とは、特例法第二条に規定されているもので、性同一性障害者の要件として二名以上の医師の診断が必要とされていることを受け規定されているものです。二名の医師のそれぞれの診断日、所属医療機関の名称、所在地、診療科、氏名が記載されます。

・性別適合手術証明書

文字どおり性別適合手術をしたという証明書です。SRSをした病院より発行されます。ガモンの場合日本語と英語のもの両方が発行されますが、申立にはその両方を添付しました。これは特例法の第三条第四項の「生殖不能要件」を根拠とするものですが、この規定について2023年10月25日最高裁はこれを違憲・無効とした判決を出しました。よって現在はこの要件はクリアする必要はなくなっており、この診断書及び上記「メインの診断書」の性別適合手術にあたる項目も必要なし(診断書様式改定)となることでしょう。これによってSRSしていないFtMの戸籍変更が認められる事例が実際に増えています。MtFについては後述の「外観要件」が未解決のためSRSなしでの戸籍変更は2024年5月17日現在認められていません。

・外性器検査診断書

身体的状況として、外性器が膣を持つ女性型の性器に類似しており、陰茎、陰嚢、精巣は認められないことなどが記載された診断書です。特例法の性別変更要件の一つで「外観要件」と言われています。私はかかりつけの「はりまメンタルクリニック」から「八重洲中央クリニック」を紹介され、そこで受診しました。股を広げるような器具が取り付けられた診察台に乗って診察を受けます。外性器を実際に触られてその状態やクスコを入れられて膣の状態も診られました。膣なしでSRS施術した人の場合は膣内の検診はないと思います。費用は診断書と診察代で11,000円(うち文書料7,000円)でした。これは特例法第三条第五項の「外観要件」を根拠とするものですが、この規定も先述の最高裁で問題となったものですが、これについては最高裁では判断せず高裁に差し戻しにしています。2024年5月17日現在はその結果はまだ出ていませんが、おそらくこれも違憲・無効とする判決が出るものと思います。これによってこの診断書も不要になり、上記「メインの診断書」のこの項目についても必要なし(診断書様式改定)となることでしょう。

・染色体診断書

生物学的な性別の「染色体」について検査したもので、それが「XY染色体」であることの診断書(報告書)です。特例法第二条で「性同一性障害者」について定義されていますが、そのひとつの要件として「生物学的には性別が明らかである」(MtFであれば男性である)との規定があるので、この診断書はそれを証明するものです。染色体検査はジェンクリに通い出してから初期の段階でやることが多いです。検査は採血するだけです。費用は1万5千円ほどします。

※このように性別変更についての診断書はとても詳細なものとなっており、各種診断書等も必要でとても短期間で作成出来るものではないことが分かります。その点即日診断のクリニックではどうやってるのか正直謎です。でもそのようなクリニック経由でもちゃんと性別変更が出来ている当事者はいることから、そのようなやりかたもあるようです。当サイトも即日診断を紹介してますしね。

③出生時から現在までの全ての戸籍謄本・除籍謄本

「戸籍謄本」とは戸籍に記載されている内容の証明書で、戸籍の写しに間違いない旨を本籍地の市区町村長が認証したものです(「戸籍全部事項証明書」とも呼ばれます)。これに対して「戸籍抄本」という似たような名前のものがあるのですが、「謄本」が戸籍に記載された全部事項(自分、父、母、兄弟、配偶者等)が記載されているものであるのに対して、この「抄本」は自分だけが記載されたものです(「戸籍個人事項証明書」とも呼ばれます)。戸籍変更の手続に必要なのは「謄本」であり「抄本」ではありません。間違えないようにしましょう。

「除籍謄本」とは分籍(親の戸籍から外れて自分だけの戸籍を持つこと)や転籍(本籍を移転させること)を行った場合、また婚姻(親の戸籍から外れて配偶者と新しい戸籍を持つ)などで元の戸籍から抜けた場合の、その元となる謄本をいいます。

また「改正原戸籍謄本」というものもあるのですが、これは1994年に法改正がありそれまで手書きであった戸籍が電子化されました。今の電子化された謄本がいわゆる「戸籍謄本」であり、それに対して「改正原戸籍謄本」は昔の手書きの謄本のことをいいます。1994年以前に生まれた人はこの改正原戸籍謄本も必要になることになります。

「出生から現在まで全ての」とは、出生すると親の戸籍に自分が入り、それが自分の初めての戸籍になるのですが、そこを起点として今現在までの流れを証明できる謄本全てということです。例えば結婚、子供を儲け、離婚などした人は「自分の出生時の除籍謄本」「婚姻して新たに作られた戸籍謄本」「今の戸籍謄本」(子供の出生の記録があり且つ配偶者が除籍となっているもの)が必要になります。さらに法改正があった1994年以前に生まれた人は「改正原戸籍謄本」も必要です。分籍した人はそれが分かる除籍謄本も必要となります。転籍した人はその除籍謄本も必要です。本籍地を動かしていない人はその所在地の市区町村窓口で相談して一気に出してもらえるのですが、本籍を動かしている(転籍している)人は謄本の請求先がそれぞれ変わるので結構大変だと思います。1995年以降に生まれた人で、分籍や婚姻など何もしていない人は現在の戸籍謄本一枚で済むかと思います(違ってたらすみません)。

④郵便切手

連絡用の郵便切手です。家庭裁判所から当事者への性別変更の審判書の送付、裁判所から市区町村への戸籍変更の依頼連絡、市区町村から裁判所へ戸籍の変更完了の連絡、裁判所から当事者への戸籍変更完了連絡(この完了連絡は裁判所によってはないです)などに使用されます。これは各家庭裁判所によって違うので管轄の裁判所に電話して確認してください。私は合計1,990円(内訳:500円2枚、100円1枚、84円10枚、10円4枚、1円10枚)でした。

⑤その他

以上が申立に必要な書類ですが、特にそれ以外のものの提出を妨げるものではありません。他に提出したいものがあれば提出していいのです。例えば友人や親からの嘆願書等です。当事者がいかに女性として世間で通用し、会社や学校等を含めその生活上女性としてなんら不都合なく過ごせているかを強調し、性別変更がどれほど当事者のためになるかを記したものがあればとても心強いです。こういったものを参考書類として提出すれば裁判官の理解の助けとなるでしょう。不利に働くことはないと思います。

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 郵送もしくは持参する

申立に必要な書類がそろったら管轄の家庭裁判所に郵送するか持参してください。提出先の係は前述の郵便切手を確認する際に聞いてください。私の場合の提出先は「審判係」でした。なので〇〇家庭裁判所〇〇支部審判係御中で郵送しました。(居住地によっては支部がないところもあります)。常識的な話ですが、郵送する場合は必要書類をただ送るのではなく、送付状を同封してください。送付状の書式はここでフリーで手に入りますので、これをベースに作成すると簡単で見栄えもいいです。

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面談等の連絡が来る

提出してしばらくすると面談等の連絡がくることがあります。これは詳細を確認するために当事者に裁判所へ来てもらって面談を行うからその日程調整をするものや、追加で書類を送って欲しいというものがあります。面談や追加書類の連絡も何もなく性別変更が完了する場合もありますが、多くは面談の連絡があるでしょう。時期的には私は申立書を郵送しておよそ一週間くらいで面談の電話が掛かってきました。

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面談する

指定された日時に裁判所に行って面談を行います。私の場合は女性の裁判所書記官1名による面談でした。面談で聞かれたことは特例法の性別変更要件をひとつひとつ再度確認するものや、いつから性別違和を感じていたのか、現在女性として生活していて困っていること、病気や思い込みなどがないか、性別変更が許可された場合でも問題なく生活はやっていけるか、などについてでした。一番重要視されたのは性別変更後の生活基盤で、性別変更後に環境が一変して生活できなくなってしまう事態に陥らないかを丁寧に聴取されました。また、統合失調症などの病気で「やっぱり元の性別に戻りたい」と思ってもそれはできない旨も強調されましたね。所要時間は20分程度でした。

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審判書が届く

性別変更の審判が出ると家庭裁判所からその旨記載された審判書が郵送で届きます。審判書には自分の本籍、住所、氏名と、「上記申立人からの性別の取扱いの変更申立事件について、当裁判所はその申立てを相当と認め、次のとうり審判する」とあり、「主文、1,申立人の性別の取扱いを男から女に変更する。2,手続費用は申立人の負担とする」との記載があります。そして裁判所はこの謄本連絡が当事者に送達されたことを確認すると、当事者の本籍地の市役所に対して戸籍記載の嘱託し、市役所はこれを受けて戸籍の記載を変更することになります。審判書は特別送達で郵送されます。特別送達とは裁判所が出す書留みたいなものです。普通郵便とは違い対面での受け取りになりますので不在の場合は不在票が入ります。できるだけ在宅の時に受け取りたいものですね。(特別送達は厳密には不在でも玄関に置くなど「差し置き」でも送達されるものですが、たかが性別変更などの場合ではそのような措置はされないでしょう)。前述のとおり戸籍謄本は裁判所からの指示で市役所が行うので当事者が自分でやる必要はありません。住民票も自動的に変更されます。その他いろいろと変更しないといけない書類等があると思いますが、詳しくは他の記事で解説しますので参照してください。(現在当記事は未完成です。完成をお待ちください)

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まとめ

いかがだったでしょうか。性別変更の申立はトランスの終着点であり、それと同時に戸籍女性としての出発点でもあります。これまでのトランスの道は長く険しく、たくさんのツラい思いをしてきたことでしょう。レディースの服を着たりウィッグを被ったりして女性のカタチから入り、女性ホルモンを摂取し、女性として生活、RLEを通して実績・経験を積み、名前を女性名に改名し、大金を貯めてSRSをしてなど、それ以外でもたくさんの絶え間ない努力をし、そしてそれと同じように数え切れないほど涙を流し唇を噛む経験もしてきたことと思います。これまでの事を振り返ると、そんな自分が歩んできた苦労、経験がひとつの道となっているのが見えるのではないでしょうか。大変でしたね。よく頑張りました。これからは前を向いて新しく、正々堂々と女性としての道を歩んでいきましょう。これまでに培った経験、努力、勇気は必ずこれからの人生の糧となり道しるべとなります。貴女にはもう怖いものなどないはずです。男性から女性への性別変更という高く険しい大きな壁を乗り越えたのですから。この先もきっと大丈夫です。明るい人生を歩んでいきましょう。

 

 

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